事故や虫歯などで大切な歯を1本失ってしまった場合を想像してみてください。1本だけの取り外しの入れ歯をつくりますか?それとも顎の骨に金属を埋め込み人工の歯を立てるインプラントにしますか?もしくは、神経の有無に関わらず両隣の歯を大きく削るブリッジもあります。この中から1つ選んでくださいと言われたらあなたならどうでしょう。「これにします!」と即答できるでしょうか?まだまだ未熟な私の経験上ですが、この場合、多くの意見が割と同じように思います。
「入れ歯はしっかり噛めないし、取り外しが面倒くさいから論外」
「インプラントは手術が怖い。その後も心配・・・」
そしてブリッジのシュミレーションアニメを見てもらうと、
「えっ!こんなにたくさん削るの?」
と一瞬ショックを受けたような顔に。
少し前まではこんな状況になると消去法でブリッジを選択される方が多数でした。でも正直なところ「隣の歯が勿体ない」と思いませんか。私(院長)は思います。そこでご紹介したいのが、新しい選択肢ヒューマンブリッジです。インプラントやブリッジ以外の方法を探してお悩みの方へ。もしかするとヒューマンブリッジが適応可能かもしれません。
ヒューマンブリッジは2008年頃韓国で考案された最先端歯科医療で、その数年後に日本にもたらされました。日本ではまだ歴史の浅い治療法ですが、臨床研究と各病院による検証手続きを経て臨床標準として採択されました。インプラントとブリッジの中間的位置付けの補綴方法で短期間で装着できるのがメリットです。また心臓病、高血圧、糖尿病など全身疾患のためインプラントができない患者さんにも施術可能です。最先端ときくと複雑な治療をイメージしがちですが、ヒューマンブリッジの治療ステップは至極シンプルです。
ステップ① 両隣の歯のエナメル質にわずかな溝を入れ、※麻酔不要
ステップ② 特注のパーツ(白金加金使用)を取り付け、
ステップ③ そこに特注の人工歯をはめ込む。※取り外し不可
大前提ですが歯は一度削ってしまうと元には戻せません。そして歯の表面のエナメル質、これは人間の体で最も硬い組織ですが、これを削ってしまうのは実に歯に良くないことです。一般的に被せ物や詰め物をする場合、つまりここではブリッジの場合、エナメル質の下の象牙質まで削る必要があります。この象牙質部分まで削ってしまうと、どうしてもブリッジと歯との間に経年による隙間が生じ、再度虫歯になる可能性(二次カリエスリスク)が高くなります。またブリッジには歯と歯の平行性が必要なため、場合によっては健康な歯でも神経を抜かなければならないケースがあります。
ブリッジは橋げたとなる歯を
大きく削る必要があります。
一方ヒューマンブリッジは可能な限り歯質を残します。削るのはエナメル質にわずかな溝を入れるだけ。ほとんど削らないので麻酔も必要ありません。当然、削る時間もないに等しいくらい短く患者さんにとって苦痛の少ない治療といえます。ただしどんな場合にも適応可ではなく、補綴である以上、構造上いくつかの条件があります。またパーツには白金加金(ゴールドを加えたプラチナ)を使用します。そのため、コストは30万円~とインプラントに匹敵します。もちろん保険適応外の治療ですが、医療費控除の対象治療です。
インプラントやブリッジは歯や骨をたくさん削る対価としての治療費。
ヒューマンブリッジは極力歯を削らないための3次元的構造設計と材料(白金加金)に対する治療費。
そんなイメージがわかりやすいと思います。そう、従来と考え方が全く逆なのです。ヒューマンブリッジでは歯をほとんど削らないので、たとえ将来何らかの理由でそれが駄目になったり、あるいは外したい状況になったとき、まだブリッジやインプラントの選択肢が残されている可能性があります。やり直しがきくこと、何より、歯を極力削らないことを重視される方にお勧めの治療法といえます。デメリットをあげるならば、日本にもたらされて歴史が浅く症例数がまだ少ないので、「何年くらいもつのか」、「どういった場合に取れてしまうのか」、といったご質問にお答えできない事です。ヒューマンブリッジが普及し一般的な選択肢として定着したならば目安としての集計データがうまれることでしょう。
ヒューマンブリッジは新しい治療法ゆえにイメージしにくい方が多くいらっしゃいます。ですのでこの治療は9割以上が説明だと思っています。一度聞いてもよく解らなかったという方は何度でもご説明します。模型やアニメーションを駆使してお話します。当院の症例の範囲内で「こんな場合にしたよ」、「それからどうなったよ」などとお話することはいくらでも可能です。歯を失ってお困りの方はお気軽にご相談ください。
担当技工所の営業さんによると富山県内初となった症例を紹介します。自らの撮影により照明にムラがありますがご了承ください。20代女性、咬み合わせの不良により右下小臼歯(4番)1本を失ってしまいました。
●抜歯後の様子
●隣の小臼歯(5番)に詰め物(保険)をしていたので一旦取り外しました。
●手前の前歯(3番)には裏側にわずかな溝を入れました。どこか解らないほどのわずかな溝です。精密な型取りをしたのち、パーツが出来上がるまでの間に両隣の歯が倒れたりして動かないよう、人工歯付きのマウスピース(スプリントテック)を装着していただきました。
●約3週間後、完成したヒューマンブリッジのパーツを入れてみました。まず手前の前歯(3番)に装着。前からの見た目は何ら変わりません。
●そして小臼歯(5番)に装着。
●最後、真ん中の人工歯をはめこんで完成です。人工歯には白金加金にポーセレンを焼き付けてあります。この症例では、奥歯は金属の詰め物で治しましたが、それ以外は外から見ても金属のパーツが入っているようには見えません。ヒューマンブリッジは審美的にも優れた治療法です。
60代男性、虫歯により左上小臼歯(5番)を失ってしまいました。実際に装着した際の写真では上手く伝わらないと判断しましたので、模型での完成パーツ写真を織り交ぜてご紹介します。撮影技術がお粗末で申し訳ございません。
●隣の大臼歯(6番)に保険の銀の詰め物をしてらっしゃったので、一度外しました。そして、手前の小臼歯(4番)のエナメル質にはわずかな溝を入れました。
●両隣の歯に装着するパーツ(完成品)です。ともに小さなフックが付いており、間に失った歯を補う歯を装着します。※取り外し式ではありません。
●実際に口腔内で装着した際の写真です。反対側も同時に見えるよう大きなミラーを使って撮影しています。
20代女性、左下大臼歯(6番)が大きな虫歯だったこと、そして根の先の膿胞が消えなかったことにより抜歯の判断をしました。その後の処置について、こちらの患者さんはインプラントとヒューマンブリッジどちらがいいか最後まで悩んでおられました。結果ヒューマンブリッジを選ばれましたが、ヒューマンブリッジを作製する前に、ひとつ隣の大臼歯(7番)に保険の銀の被せ物をされていたので、一度取り外して歯の根をキレイにする治療を行いました。「折角ヒューマンブリッジを入れたのに根の先が膿んで外さなくてはならなくなった…」というのでは勿体ないですからね。
●大臼歯(7番)の根の治療を終えて土台の形にしました。そして小臼歯(5番)のエナメル質にはわずかな溝を入れました。溝は写真で見てもよくわからないと思います。麻酔もいらない程の、本当にわずかな溝ですので。
●小臼歯(5番)にパーツを装着しました。※取り外し式ではありません。
●大臼歯(6番と7番)が2つつながったパーツを装着しました。今回、症例1・2と大きく違うのは、2パーツで構成されていることです。
60代男性、来院された時には既に右下小臼歯(5番)の動揺が大きく、やむなく抜歯となりました。
●まず隣の小臼歯(4番)のエナメル質にわずかな溝を入れました。写真はそこに出来上がったフック付きのパーツをはめたところです。
●隣の大臼歯(6番)に入っていた保険の被せ物を一度取り外し、歯の根の治療を行いました。それから土台をととのえ、小臼歯と大臼歯(5番と6番)が2つつながったバーツを取り付けました。
40代男性、右上小臼歯(4番)が何度も腫れ、その都度根をきれいにして残す治療を行いました。しかし思うように改善が見られず抜歯に至りました。
●手前の前歯(3番)にはエナメル質にわずかな溝を入れました。奥の小臼歯(5番)には保険の詰め物が入っていたので一旦取り外し、フック付きの詰め物を作製。写真はそれらの歯にパーツを取り付けたところです。
●最後に真ん中の人工歯を取り付けたところです。前歯部のパーツは裏側から施されますので、ひっくり返って大口を開けない限りは見えません。上の前歯にこそ審美的なメリットが発揮されるように思います。
30代女性、右上前歯(2番) 補綴を繰り返しましたが、虫歯が大きく、やむなく抜歯に至りました。セット本番、緊張して装着前の写真を撮り忘れてしまったので、クイズ形式で掲載したいと思います…。
●まず装着後の前からの様子。どこにヒューマンブリッジを取りつけたか、すぐにわかりますか?
●ミラーで裏から見た感じです。
60代男性、右下第一大臼歯(6番) お若い頃にした大きな治療がもとで根が破折し、抜歯に至ってしまいました。手前の第二小臼歯(5番)も奥の第二大臼歯(7番)も、写真では年季の入った象牙質色ですが、治療形跡のない完全に元気な天然歯。かつ7番が大きく舌側に傾斜しているため、ブリッジのための平行性確保が難しい症例でした。それでもブリッジを選択するなら7番の神経を抜かなければなりません。またご本人は7番の噛み合わせになんの不都合も感じておられません。そのため極力ご自身の歯を削らずいかせるヒューマンブリッジを選択されました。
●右下5番と右下7番にパーツをセットしたところです。
●右下6番に当たるパーツ(ポンティック)をセットしたところです。
装着後、お口の中を鏡でご覧になって一言、「カッコイイね!」
私(院長)もお世辞抜きでそう思います。末長く使って頂けるように、今後も定期検診のお葉書をお送りすることになっています。
70代男性、多忙につき長年、右下第一大臼歯(6番)が無い状態が続いておられました。サクランボの種が挟まったり、左側に頼って噛みがちだったりということでようやく治療着手。両隣が神経のある歯だったのでヒューマンブリッジを選択されました。症例7同様、6番の傾斜が大きかったのですが、ヒューマンブリッジは平行性を問わないため、わずかな溝の形成のみでセットすることができました。
※写真撮影技術が未熟なため、セット前の模型上の写真を掲載します。
●セット前の様子(頬側から)
●セット後の様子(頬側から)
●セット後の様子(舌側から)
30代男性、右上4番を虫歯で失ってしまいました。右上3番は健全歯。右上5番は隣接に虫歯治療済みでした。レジン処置とヒューマンブリッジパーツの二重の処置を避けるため、5番のみインレー型のヒューマンブリッジを採用しました。とても歯並びがよく前歯の咬み合わせが理想的で、ヒューマンブリッジパーツの金属が全く噛み合わせの邪魔をしませんでした。
●セット物。頬側から&舌側から。
●セット前。
●セット後。どこに装着されたかわかるでしょうか。またこの方はブラキシズム(就寝時の歯軋りなど)があるということで、初診以前からマウスピースを使用されていました。そこでセット後新たにナイトガードを製作し使って頂くことになりました。
50代女性、左上5番を失ってしまい、他院でブリッジかインプラントをすすめられたそうです。しかしながら歯を大きく削るブリッジに抵抗があり、インプラントも「手術までしなくても・・・」という気持ちがあり、悩んでおられた時にヒューマンブリッジの存在を知り、当院に相談に来られました。※撮影技術が未熟なため模型上の写真でご紹介します。
●セット前の様子(頬側から)
●左上4番のパーツをセットしたところ
●左上6番のパーツをセットしたところ
●ポンティックをセットしたところ
40代男性、右下5番の歯根破折により、いつ抜けてもおかしくない状態で、最近抜歯に至ってしまいました。以前からヒューマンブリッジの説明をしていたこともあり、今回処置に至りました。※撮影技術が未熟なため模型上の写真でご紹介します。
●セット前の様子(頬側から)
●右下6番のパーツをセットしたところ
●右下4番のパーツをセットしたところ
●ポンティックをセットしたところ